笹吹きを再び溶かして金の延べ棒の型に入れ、刻印。このカットを撮影する約5分の間、持っていたライター伊藤が3回休憩したほどの重み(撮影/写真部・小山幸佑)
笹吹きを再び溶かして金の延べ棒の型に入れ、刻印。このカットを撮影する約5分の間、持っていたライター伊藤が3回休憩したほどの重み(撮影/写真部・小山幸佑)

 6月に入って大手貴金属会社の国内金小売価格が1グラム5千円台に乗り、産業用需要も上昇傾向にある“金”。携帯電話やパソコンなどの廃棄物が金の延べ棒に生まれ変わるまでの現場を、特別な許可を得て撮影した。

【廃棄物が金の延べ棒に生まれ変わる工程はこちら】

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 家電量販店や郵便局などで、使用済み携帯電話や小型家電の回収ボックスを見かけたことがある人は多いのではないだろうか。これらの廃棄物には鉄やアルミ、レアメタル、金などの有用な金属が含まれている。

 金といえば、かつては金鉱山で採掘されるものだった。だが現在は国内の金鉱山はほとんどが閉山し、日本で稼働しているのは菱刈(ひしかり)鉱山(鹿児島県)などごくわずか。代わって注目されているのが、携帯電話やパソコン、家電などに使われている金を取り出し、リサイクルする方法だ。希少金属を含む廃棄家電や精密機器は「都市鉱山」と呼ばれ、注目を集めている。

 日本は資源のない国といわれるが、国内都市鉱山の金埋蔵量は約6800トン。これは世界の金推定埋蔵量4.2万トンの約16%に匹敵する(環境省電子書籍広報誌「エコジン」2017年10・11月号)。2020年の東京五輪・パラリンピック大会で授与される5千個以上のメダルは、大会史上初めてすべてが都市鉱山から作られることになり、話題となった。

 金は金属の中で最も錆びにくく、変質しにくい。細く薄く延ばすことができ、電気も通しやすいため、精密工業製品には不可欠だ。精密機器が大量に破棄される首都圏こそ、日本最大の金の産地といえる。

 金の販売・精錬大手の田中貴金属工業の精製工場は、首都圏から約1時間の場所にある。金の原料となるのは、プリント基板やICチップなどの精密機器、携帯電話やパソコンを破断・焼成した固形物などだ。

「この工場では金や銀を数十トン、再生しています」(田中貴金属工業執行役員で工場長の奥田晃彦さん)

 数十トン! まさに“宝の山”と呼ぶにふさわしい量だ。

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。アエラ増刊「AERA Money」も担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などマネー関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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