君は愛情というものを複雑に考えすぎていやしないか? もっと簡単でいいんだよ。アイラブユーと言って、ハグするだけでいいんだ、と。

 えっ、それだけでいいの? それなら1秒でできるよ? 夫に喜んでもらおう、陰で支えよう、と日々3時間くらい家事に費やしていた苦労はなんだったのか。私は膝からがっくり崩れ落ちました。

 同じことが、子どもへの愛情表現にも言えるんじゃないかとその一件から考えるようになりました。むしろ、子どもにこそ言えるんじゃないかと。

 我が家の子どもたちは、上が3歳、下が生後4カ月。「母が家事に勤しむ背中を見て愛情を受け取るのだぞ」と教えるにはちと厳しい年齢です。それより「大好き」と口にしてぎゅーっと抱きしめてあげるほうがよっぽどストレートに愛情が伝わるんじゃないか、そう考えるようになりました。

「大好き」と言って抱きしめると、子どもたちは本当に嬉しそうな顔をします。3歳児はもちろん、4カ月の下の子も心なしか微笑んでいるようです。それに「大好き」とハグって、している親の側も幸せになるんですよね。上の子のワガママに翻弄され、下の子のギャン泣きで頭が割れそうになっているとき、無理やりにでも「大好き」と言ってふたりをぎゅーっと抱きしめることで、尽きかけていた「子ども大好き」のかけらが集まってかたまりに戻る気がします。

 そういえば、アメリカの人たちは本当によく「アイラブユー」を口にし、子どもをハグします。学校へ送り出すとき、アイラブユー&ぎゅっ。子どもを叱ったあと、アイラブユー&ぎゅっ。夜ベッドへ寝かしつけるときも、アイラブユー&ぎゅっ。先日プリスクール(保育園)で上の子がケガをしたとき、先生たちは「You need extra love today(今日はいつもより愛情が必要だね)」と言って、上の子をずっと抱っこしていてくれました。そういう文化があるから、うちの夫も愛情表現はその2つで十分だと言ったのかもしれません。

 何を愛情と捉えるかは、人それぞれ、家庭それぞれでしょう。日本の文学や音楽には愛していると言わずに愛を伝える方法があふれていて、それらもとても美しい愛情表現です。でも、もっと簡単に考えてみてもいいんじゃないか。特に幼い子どもには、もっと直接的に愛情を伝えてもいいのかもしれない。日本的な以心伝心に「大好き」とぎゅーっをプラスしたら、それはもう最強なんじゃないかと思うのです。

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◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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