福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授
福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授

 メディアに現れる科学用語を生物学者の福岡伸一が毎回ひとつ取り上げ、その意味や背景を解説していきます。いわば「科学歳時記」。第7回は「腸内細菌」と「マイクロバイオーム」を解説します。

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 勤務する青山学院大学の大学院は社会人も受け入れているので学生は多士済々。そこで講義の際、参加者に、自分のバックグラウンドや興味を持っていることについて簡単なプレゼンをしてもらい、それを受けて私からも話題提供することにしている。

 先日の回では担当の院生がこんな発表をしてくれた。

「福山雅治と妻夫木聡とローラの共通点はなんでしょう?」

 私を含め、みんなが首をひねっていると解答を教えてくれた。学生いわく、タモリ式入浴法を実践しているというのだ。事実は定かではない。

 タモリ式入浴法とはお風呂に入る際、湯船に浸かるだけで、ボディーソープや石けんを使わない入浴法を言うらしい。なんだかちょっと頼りないが、これで十分清潔が保て、それ以上に、肌に生息する常在菌を損なわないので、美肌効果や保湿効果が維持できるという。

 なるほど。それも一理ある。

 皮膚だけでなく、口内、肺、膣などにも常在菌がいる。これらの微生物は「マイクロバイオーム」と総称され、ただ寄生しているわけではなく、ヒトの健康に多大な益をなしているとの認識が近年、急速に高まってきた。

 なかでも重要なのが、内側の肌ともいうべき消化管内に生息している腸内細菌である。ヒトが合成できない栄養素を作り出して供給してくれる、悪い細菌の侵入から消化管を守ってくれる、そしてヒトの免疫系に適切な刺激を与えて体調を整えてくれる、などの大きな寄与がわかってきたのだ。殺菌剤や抗生物質などを多用しすぎると、せっかく身体を守ってくれているマイクロバイオームを損ない、それがかえってアレルギーやアトピーにつながる可能性がある。しかも、いったんマイクロバイオームのバランスが狂うとそれが復活するのに長い時間がかかる。

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福岡伸一

福岡伸一

福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授。1959年東京都生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授を経て現職。著書『生物と無生物のあいだ』はサントリー学芸賞を受賞。『動的平衡』『ナチュラリスト―生命を愛でる人―』『フェルメール 隠された次元』、訳書『ドリトル先生航海記』ほか。

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