令和になって雅子さまは、「期日奉告の儀」という宮中祭祀(さいし)を無事に務められた。髪は大垂髪にし、古式装束に身を包み、三殿を拝礼した。だが逆に、それが雅子さまのハードルを上げたという見方を、ある皇室研究者から聞いた。

「期日奉告の儀」は即位の礼と大嘗祭の期日を陛下が報告する祭祀で、言うならば「お代替わりスペシャル」。だから、雅子さまの出席はある意味当然。一方「香淳皇后例祭」は通常の祭祀。だから、欠席すれば再び「やはり雅子さまは、宮中祭祀に熱心でない」と批判が高まるのではないか。そういう指摘だった。

 皇太子妃時代を思い出し、暗い気持ちになった。が、杞憂だった。雅子さまは欠席したが、問題視する意見は聞こえてこなかった。皇太子妃時代には同世代だけのものだった「欠席」への理解が、令和になって広がった。雅子さまの適応障害という病を前提に、できること、できないことを温かく見守る。そんな空気が広がっていると感じ、安堵の気持ちを込めて、「静かに欠席」とした。

 これは、お二人のスタイルが受け入れられ始めた証しかもしれない。上皇さま美智子さまは宮中祭祀に大変熱心だった。国内外に一緒に出かけ、美智子さまは常に陛下から一歩下がっていた。だが雅子さまには、令和らしい新しい皇后像をつくっていただきたい。そう思った国民も多かったからこそ、トランプ大統領夫妻を迎えた姿が大評判になったのだと思う。(コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2019年7月1日号より抜粋

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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