都会から地方へなど、生活の拠点やライフスタイルが大きく変わることは珍しくない。だからこそ墓の面倒はしっかり整理しておきたい(撮影/写真部・片山菜緒子)
都会から地方へなど、生活の拠点やライフスタイルが大きく変わることは珍しくない。だからこそ墓の面倒はしっかり整理しておきたい(撮影/写真部・片山菜緒子)
全国の改葬件数は右肩上がり(AERA 2019年7月1日号より)
全国の改葬件数は右肩上がり(AERA 2019年7月1日号より)

 親が歩んできた人生の片付けを、子どもたちがしなければならない──。そんな経験をしてきた先人たちの話こそ、40、50代にとって財産になり、 自身の「予行演習」にもつながる。人の数だけある「整理」のストーリー。

【全国の改葬件数はこんなにも増えている!】

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 長野県出身で都内に住む自営業の男性(52)の場合、郷里に残した老父母のために実家を建て直したことで、人生の回転軸の向きが少し変わったようだ。

 2階建てで台所は寒い北側にあり、茶の間に日光も差し込まないような家。それを使い勝手の良いバリアフリーの平屋建てに建て替えたのは2年ほど前。その完成から間もなく、83歳だった父は亡くなり、新居には残された母が一人で住んでいる。

 生真面目な教員で最後は小学校の校長を務めた父は、80歳になる頃に軽い認知症を患うようになり、足腰もめっきり弱っていた。当時を振り返る。

「実家に久しぶりに戻ったときに、母親に『小さくてシンプルな平屋に建て替えたら』と進言し、資金の大半を私が出すことで計画が進みました。苦労したのは、大量にあった資料や書籍、ガラクタの整理でした」

 中学校と小学校で長く教鞭を執っていた父は、児童、生徒の通知表のもとになる成績の類いまできっちり全部残していた。さらに、昔の家にありがちな文学全集や百科事典や写真集、教え子の結婚披露宴の引き出物の食器類や銀製品も山のようにあった。男性が振り返る。

「書類だけで軽トラック1台分になり、シュレッダーなんかではとても処分ができずに、農家をやっている母親の実家の山林に大きな穴を掘って燃やして埋めました。本や食器類も売れるものは全部売りました。この作業だけで、週末ごとに通って1カ月半はかかりましたね」

 こうして父が歩んだ人生の整理を終え、父が建てた古い家は取り壊された。建て替えの間、母は近くに住む妹宅に同居し、自力歩行が困難になっていた父親は介護施設に入居、新居で暮らすことなく息を引き取った。

「建て替えることについて、親父はなんの文句も言いませんでしたけど、本当は嫌だったのかもしれませんね」

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