「失敗したくない、恥をかきたくない。できれば周りと横並びでいたい。そんな世の中の空気と、平板化は無関係ではない気がします」

 横並び意識とは反対に、狭いコミュニティーで特別感を得たい場合にも、平板化は起きる。井上さんはこれを「専門家アクセント」と呼ぶ。ある分野に専門的に携わる人は、その分野に関係のある外来語を平らに発音する傾向があるのだという。たとえば音楽業界の人が「ギ“ター”」「ド“ラム”」などと平板に言い、それが徐々に一般にも広まっていくのだ。

「専門用語を仲間内で使い、さらにそれを皆で平板に発音する。そうすることで帰属意識が示せるのです」(井上さん)

 前出の滝島さんは、大阪のもつ鍋店でこんな経験をした。

「私が起伏型で発音した“セン”マイ、“ミ”スジ、“ギ”アラなどを、常連さんは見事に、平板型で注文していたんです。ああ、専門家アクセントとはこういうことかとあらためて思いました」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2019年6月24日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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