──葉子は歌手を目指しながらも、どこか人生と居場所を見失っている。警戒心が強く、周囲と交わろうとしません。

黒沢:その半面、無謀に突き進んでいく面もある。つらい目にも遭うけれど、それを乗り越えると経験したことのない素晴らしい一歩が踏み出せるかもしれない。そういう話なんです。

前田:私は今回、歌うシーンがかなりプレッシャーでした。「愛の讃歌」は中途半端では歌えないので、必死に練習して。

黒沢:ラストの歌唱シーンは2千メートル級の山頂でしたから、大変だったと思います。

前田:でも本当に美しい場所でしたよね。行けてよかった。怖がらないでとりあえずやってみようぜ、という映画だと思います。葉子は用心深いキャラクターですけど、私は真逆かもしれません。一人で街をフラフラしてました。スーパーに行くのが楽しくて。そうすると監督ご夫婦によくお会いしたり。

黒沢:そうでした。

前田:一見、何も起こらないような話かもしれないですけど、そのなかで少しずつ、葉子はいまの自分の“正解”を見つけていく。そんな彼女の小さな葛藤と気づきと成長を、見てもらえたら嬉しいなと思います。

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2019年6月24日号より抜粋