親の世代の収入が右肩上がりで学費を負担できた時代はよかったが、平均世帯所得は1994年の664万円から、16年には560万円に減少。一方、この40年間で国立大の授業料は3.72倍の約54万円、私大は2.7倍の約88万円になった。

 学費値下げや奨学金制度の改善を求める行動の必要性を感じ、岩崎さんらは学生アドボカシーグループ「高等教育無償化プロジェクト」(通称FREE)を18年9月に立ち上げた。現在約30大学の学生が活動に参加している。

 メインの活動は「学費・奨学金に関する実態調査」というアンケートの実施だ。受験期、入学時から将来までと、時間軸に従って質問事項を並べており、自分の学生生活を振り返りながら回答してもらう。「アンケートに答えながら悲しくて泣けてきた」と言う学生もいたという。

 FREEの事務局長で東京大学農学部4年生の中野典(つかさ)さん(22)は、こう言う。

「こんなことをしても意味がないと言われると思ったが、拡散しておくよと言われたり、授業で協力してくれたり。活動が歓迎されていると思った」

 アンケートの結果からは、学生が置かれたシビアな現実が浮かび上がってきた。

 中央大学商学部4年生の白石桃佳さん(21)はこう語る。

「学生がやりたいことを経済的理由で阻まれないようにしたい。少子高齢化で若者が高齢者を支えることを求められるが、それなら若者に投資してほしい」

 18年12月には、東京・新宿駅東口アルタ前で実態調査の結果発表会を行った。とても寒い日だったが参加者は100人を超え、道行く人たちも足を止めて耳を傾けてくれた。「自分も学費で困っている」と話しかけてくれる学生もいた。

「学生の夢の実現や学びたいという思いが、経済的な理由で阻まれることが社会にとってプラスになるのか」(中野さん)

 学費が値上がりし自己負担が増えていく中、自分が益を受けるから自分で費用を負担するという受益者負担の考えが一般的になり、自己責任論が強くなっていく。そうすると、自分が学費を払っているから免除になっている人は許せないといった不寛容な考えになったりする。学生自身も大学で学ぶのは自分のためで、それを社会に還元しようという意識にならない。公的負担を増やすことで、大学での学びとそれを社会に還元することが結びつくのではないか──。中野さんはこう考えている。(編集部・小柳暁子)

AERA 2019年6月24日号より抜粋