出産育児一時金42万円に加え、妊婦健診の補助で妊婦1人に50万円前後の助成がある。だが、不妊治療をする人も増え、妊娠や出産にかかわる経済的な負担は大きく、妊婦加算への反対も強い(撮影/山本友来)
出産育児一時金42万円に加え、妊婦健診の補助で妊婦1人に50万円前後の助成がある。だが、不妊治療をする人も増え、妊娠や出産にかかわる経済的な負担は大きく、妊婦加算への反対も強い(撮影/山本友来)
妊婦加算による自己負担の追加は(AERA 2019年6月24日号より)
妊婦加算による自己負担の追加は(AERA 2019年6月24日号より)

 昨年4月の導入後、激しい批判を受け、わずか9カ月で凍結された「妊婦加算」。来春の再開に向けて今秋から議論が始まる。どうしたら納得できる制度になるのか。

【妊婦加算による自己負担の追加は…】

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 3人の子を育てるフリーアナウンサーの女性(40)は、妊娠中に風邪を引いて近所のかかりつけの内科に行くと、「妊婦は診られない。産婦人科を受診して」と言われ、門前払いを食らった。

「ほかの妊婦さんに風邪をうつしてしまうんじゃないかと心配で内科に行ったのに。市販薬を飲むのも不安で、仕方なく電車に乗って産婦人科に行きました」

 妊娠中にこうした受診拒否を経験した女性は少なくない。厚生労働省が今年実施した調査では、妊産婦の15%が産婦人科以外を受診した際に受診を断られた経験があるという。

 敬遠されるのは、妊娠中は合併症も起こりやすく、おなかの赤ちゃんへの影響を考えた薬の処方など診療や投薬に配慮が求められるためだ。産婦人科に丸投げする事態を放置すれば、ただでさえ不足する産婦人科医の負担が増し、妊婦が専門医の診察を受けられなくなる恐れもある。そこで、通常より丁寧な診療を評価するため、妊娠中に歯科を除く医療機関を受診した際、診療報酬を上乗せする「妊婦加算」が昨年4月に新設された。

 ところが、会計時に妊娠中と気づいて加算したケースやコンタクトレンズの処方などでも加算されていた実態が明らかになり、妊婦自身も医療機関で数百円を追加して払わなければならないことから、「妊婦税」と批判の声が強まった。与党からも「少子化対策に逆行する」と見直しを迫られ、わずか9カ月で凍結された。だが、妊婦や胎児に配慮した診療を評価する仕組み自体は必要だと厚労省の有識者検討会は判断。診療報酬の価格を決める中央社会保険医療協議会(中医協)は12日、来春の再開に向け、加算の条件や金額について今秋から議論を始めることを決定した。

 当事者や経験者たちはどう受け止めているのか。

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