──戸田恵梨香さん演じる妻が真面目な話をしている時に、池松さん、鼻の下を伸ばす変な顔をしましたよね。あまりに唐突なので、思わず噴き出しました。あれは石井監督の演出ですか。

石井:いや、僕じゃないです。あの顔、「夜空」の時もやってなかったっけ?

池松:やりましたね(笑)。他の監督の映画では、やらないかもしれない。僕の中に石井さんの映画の時の回路があるんです。その中から出てきたものです。でも、あの顔も、もともとは石井さんの感覚じゃないですかね。

石井:うん。困った時に笑っちゃうとか、感情と違う行動を取ってもらうことが多いかな。

池松:石井さんは、映画を見ている観客の感情を突然壊してくるんです。しかもギリギリのラインで攻めてくる(笑)。

──石井映画における池松さんは、もはや小津映画の笠智衆ですね。

石井:ひとつ言えるのは、お互いに独立しているべきであって、約束ごとみたいに出演してもらうのは違うと思うんです。でも、存在として池松君は抜けているからなあ。

池松:楽をしたいのなら、石井さんとはやらない(笑)。しかも、回を重ねるたびにハードルが上がっていますからね。

石井:海外の映画祭にもよく一緒に行っているよね。蔡明亮(ツァイミンリャン)監督と李康生(リーカンション)みたいな感じ。付き合っているんじゃないかと思われてもおかしくない(笑)。

池松:石井さんとは、監督と俳優を超えたところで運命めいたものを感じるんです。普段から何でも話せるし。ただし、これだけは言っておきたい。付き合ってないですから(笑)。

(構成/朝日新聞編集委員・石飛徳樹)

AERA 2019年6月17日号