石井:自分が生きている社会を信じたいんでしょうね。僕だって「愛こそはすべて」とか「人生は素晴らしい」とか言いたいんですよ、ジョン・レノンみたいに(笑)。でも、検証もせずに言ってしまうことに危うさや卑怯(ひきょう)さを感じる。そこを徹底的に疑い、格闘して、その先にある何かを見つけたい。「希望」とかじゃなく、まだ言葉になっていない何かを。

池松:映画に対してこういう接し方をしているから、石井さんは信頼できるんですよね。

──自分の伝えたいことがどうしたら伝わるか、どの程度意識していますか。

石井:何となく考えてはいます。でも、それをコントロールできたら面白くない。特に「町田くんの世界」の場合、理解できないものをシャットアウトする風潮に対するアンチテーゼでもあるので、理解されないことも念頭に置いて作っていました。

池松:僕は「伝われ」と思って演じてない。伝わるはずだとは考えているけど。本気で演じたら伝わるはずだ、と。ただ、映画って大衆の方向を目指していると思うんです。だから大衆に伝えようとしない映画は嫌いです。マスターベーションみたいな映画に出演して、気持ちよさを感じるタイプではないので。

──石井監督と池松さんのコンビは、映画では2014年の「ぼくたちの家族」を皮切りに、今回で5本目になります。

池松:一昨年の「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」でやりきった達成感がありました。だから今回、それを壊して、もう一度見つめ直すのにエネルギーが要りました。また、やりがいのある役をくれましたね。

石井:池松君をもちろん信頼しているんだけど、その信頼を利用したくはない。池松君ならこれだけはやってくれるという計算ができるけど、それは演出家として敗北です。彼に声を掛けるなら、それ以上のものを持って帰ってもらわないといけない、と思っているんです。

池松:俳優は自分で自分を演出していますから、どの作品でもゴールを決めているんです。でも、石井作品に出始めたころは行けるところまで行けるようにして臨んでいた。今回、その感覚が戻ってきました。だから、思いきり暴走ができました。

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