「これは届け出時点の数字で、その後亡くなったとしても死亡数にはカウントされません。それらを考慮すると、実際の致死率は25%ほどと推計されます」

 マダニは自身では長距離移動できないが、動物などにくっついて移動することで生息範囲を広げる。獣道や人の少ない登山道など「山」がホットスポットだ。登山やアウトドア技術を指導する登山インストラクターの栗山祐哉さんはこう言う。

「マダニは、スズメバチなどと同じようにアウトドアでは注意しなければならない生き物です。でも、その危険性を正しく理解している人はベテラン登山者でも少ないですね。むしろ、かまれるのが勲章だくらいに思っている人さえいる。危険です」

 山に行かなければ、特に注意は必要ないのだろうか。

「マダニを運ぶ動物は街中にもいますし、鳥に運ばれることもある。密度こそ違えど、畑や公園にも生息しているので注意が必要です」(前田さん)

 対策は決して難しくない。皮膚の露出を減らすこと、ディートなどの忌避剤を使うこと、体についていないか確認することだ。栗山さんはこう指摘する。

「たとえマダニが体につき、かまれてもウイルスが侵入するまでに時間差があります。マダニがいそうなエリアを通ったら、首筋や腕についていないか、できれば複数人で確認しましょう」

 これからの季節、キャンプや夏フェスと、アウトドアで活動する機会も多い。感染症の研究を長く続ける前田さんの言葉が重たく響く。

「現代の医学をもってしても、発症すれば25%もの人が亡くなってしまう。SFTSは、日本人が経験したことのない恐怖の感染症なのです」

(編集部・川口穣)

AERA 2019年6月17日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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