清武英利(きよたけ・ひでとし)/ノンフィクション作家。1950年、宮崎県生まれ。元読売新聞記者。『しんがり 山一證券 最後の12人』で講談社ノンフィクション賞、『石つぶて』で大宅壮一ノンフィクション賞読者賞を受賞(撮影/写真部・片山菜緒子)
清武英利(きよたけ・ひでとし)/ノンフィクション作家。1950年、宮崎県生まれ。元読売新聞記者。『しんがり 山一證券 最後の12人』で講談社ノンフィクション賞、『石つぶて』で大宅壮一ノンフィクション賞読者賞を受賞(撮影/写真部・片山菜緒子)

『トッカイ バブルの怪人を追いつめた男たち』は、バブル崩壊から四半世紀。住専が生んだ巨額の不良債権を舞台に、悪徳債務者に向け将棋の駒のように打ち込まれていった名もなき人々の物語だ。著者の清武英利さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 タイトルの「トッカイ」とは、「特別回収部」の略。バブル崩壊の過程で経営破綻した住宅金融専門会社(住専)が生んだ巨額の不良債権を回収するため住宅金融債権管理機構(後の整理回収機構)が設立されたが、整理回収機構にできたのが大口、悪質、反社会的な債務者から取り立てるトッカイだ。『しんがり』などで場末組の苦闘を描いてきた清武英利さん(68)は、今度は、バブル崩壊という日本経済の未曽有の敗戦処理を負った人々を描いた。

「矛盾の中に投げ込まれたとき人間はどうやって生きるのかというのが、僕のテーマでもあります」

 今も整理回収機構が悪質債務者から取り立てを続けている──。そう友人から聞いたのが執筆のきっかけ。まだ続けていたのかという驚きと共に、彼らの苦しみや喜びの声を拾っていきたくなった。それもトップランナーではなく「その他大勢の人々」の声を。

「整理回収機構の初代社長には中坊公平(なかぼうこうへい)さんという有名なトップランナーがいた。これまで中坊物語を書いた人はいっぱいいる。しかし僕は、中坊さんの下で鞭を入れられ汗を流した人々に魅力を感じた」

 だが取材は一筋縄ではいかない。口が堅い関係者と信頼関係を築くため、最初の1年間はひたすら話を聞いて歩いた。

「取材源をつくるというのはその繰り返し。こいつに教えても大丈夫、こいつに話したらきちんと書いてくれる。そのことを知ってもらうために取材をする。取材って、『私は信頼できる男になります』という宣言みたいなものです」

 地道な取材を続け、3年半かけ書き上げたのが『トッカイ』だ。あとがきにこう書いた。

<彼らの不良債権回収は将棋に似ている>

 トッカイに組み込まれたのは、住専の元社員や銀行からの出向組。彼らは貸し手側から取り立てる側に回り、悪徳債務者に向け将棋の駒のように打ち込まれていった。不遇な環境、厳しいノルマ。「社長を怒らせたら、人一人殺すの平気やで」と脅されることも。そんな「3K職場」で、トッカイの面々は悪質債務者をじわじわと追い詰めていく。

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