姜尚中「日米蜜月の『抱きつき外交』より重視すべきは日独協定」

連載「eyes 姜尚中」

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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 ドイツのメルケル首相が、米ハーバード大学の卒業式で記念講演を行いました。旧東ドイツ出身のメルケル首相は、これまで私生活をほとんど語ることがありませんでした。しかし、この講演ではベルリンの壁を例に出し、自らが壁によって奪われた多くの機会を語りました。名前こそ出さなかったものの、トランプ米大統領の政策を批判した上での「無知と偏狭の壁を打ち破りましょう」という声には、観衆から拍手喝さいが起きました。

 一方、対極だったのが安倍晋三首相です。先月末のトランプ大統領の訪日は「抱きつき外交」と言われています。ふたを開けてみればF35戦闘機の大量購入など、実際にはトランプ大統領に羽交い締めにされている状態でした。

 表面的には日米ハネムーン状態でも、トランプ大統領のツイートを見れば参議院選挙後に何が出てくるのかほぼ理解できるのではないでしょうか。自動車の輸出を自主規制するか、農産物の関税を引き下げるかのどちらかを選ぶトレードオフということになりかねません。何よりも驚いたのは北朝鮮の短距離ミサイルに関する見解が大幅に違うことでした。

 こういう中での対米追随です。来年、大統領選挙に突入することを考えると、米中の対立はますますエスカレートしそうです。こういう状況の中でただ米国に抱きつき、異論や助言すらできそうにない日米蜜月は、やはり異様です。「外交の安倍」の真価が問われているのです。残念ながらロシアとの関係も「座礁」しつつある今、パートナーシップを結ぶべき国はどこなのかということを改めて再考すべきです。

 まもなくG20大阪サミットが開催されます。これを単なる政治ショーにして、選挙に流れ込んでいくとなると日本は大変な負担を強いられそうです。

 このG20で、メルケル首相が率いるドイツとの関係を日本がどういう風に仕切るのかというのが大きなカギになってくると思います。ドイツと連携しながら、反保護主義、反自国中心主義を打ち出し、自由主義と多国間主義の原則を再確認できるかどうか。今こそ、新たな日独協定が必要なのです。

※AERA 2019年6月17日号

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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