「3年間、会うことを拒否していましたが、母がどうしてもと言うので不承不承会いました。その人は無理やり引き出すとか、僕の今を否定しなかった。相談を重ねていくなかで思ったんです。『僕は親の家でなんか、生きていたくない』と」

 本人から「本音=欲求」が湧き出てくれば事態は動きだすというのが、前出の明石さんの持論だ。特に50代にもなると「今更、何をしても無理」という諦めが強いと感じている。だから、こう声をかける。

「確かに若くはない。でも、ここからだよね。自分が生きたかった人生を生きてみようよ」

 だからこそ、今回、川崎市と東京都練馬区の二つの事件が相次いだことで、ひきこもりと犯罪が結び付けられ、当事者たちがもっと閉ざしてしまうことに危惧を抱く。

「事件を巡る報道の寛容さのなさに、多くの人が不安定になっている。ひきこもりをあたかも、犯罪予備軍のように危険視するのではなく、これを機に、理解を深める方向に進んでほしい。社会に寛容さが必要です」(明石さん)

 ひきこもり状態にある人たちをNPOで支援してきた大正大学地域構想研究所の山本繁特命教授も、ひきこもりの支援が後手後手になっていることに問題を感じる。安倍政権は「1億総活躍社会」の実現を目指すが、政策には優先順位があるように映る。

「活躍させるまでにコストがかかりそうな人たちの優先順位は下がるので、ひきこもり支援などは後回しにしておきましょうという結論になる」

 高齢化社会が進むにつれ、8050問題は今後も大きな社会課題になる。

 山本特命教授は言う。

「就労支援だけでなく、まずは孤立を解消しなければいけない。成熟社会が向き合わなければいけない現実です」

 ひきこもりの支援者であり、ひきこもり問題に詳しい、白梅学園大学の長谷川俊雄教授は言う。

「ひきこもり支援は、家族支援から始まるのが特徴ですが、この20年、家族支援はどんどん後退しています。本人に就労を迫るものになっていますが、就労=ゴールは危険です。まずは本人が、本音と本心を語れるようになることが大事です」

(ライター・黒川祥子、編集部・小田健司)

AERA 2019年6月17日号より抜粋