今年3月、コオロギはヒトと似た構造の耳を持つという研究成果が発表された。そもそもコオロギの耳はどこにあるのだろう? どのような点が人と似ているのだろう? 毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』6月号に掲載された記事を紹介する。

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 これまでコオロギ、カマキリ、キリギリス、ヤガなどには鼓膜を持つ「耳」(聴覚器)があることがわかっている。耳のある場所はさまざまだが、日本の草地にいるフタホシコオロギやエンマコオロギは両前脚にある。

 コオロギは、オスが羽をこすりあわせ、メスを誘う鳴き声を出す。メスはその鳴き声が同じ種類のオスかどうかを聞き分けて誘いを受け入れ、交尾して卵を産む。つまり、子孫を残すために、音を正確に聞き分けることがとても重要なのだ。また、天敵のコウモリが出す音(人の耳には聞こえない超音波)を聞き分けることで、身を守ってもいる。コオロギは小さくても、すばらしく高性能な耳を持っているのだ。ただし、音を聞き取るしくみは、これまでよくわかっていなかった。

 北海道大学の西野浩史助教たちは、「共焦点レーザー顕微鏡」という最新の技術を使ってコオロギの前脚にある耳のつくりを詳しく調べ、それがヒトの耳が音を聞き取るしくみとよく似ていることを明らかにし、今年3月、専門誌に発表した。その研究成果のあらましを紹介しよう。

■液体の流れで音を捉えるヒトの耳

 コオロギの耳の話をする前に、まずヒトの耳のしくみを説明しよう(図「ヒトの耳」を見てね)。

 音は、空気の振動(ふるえ)が波となって伝わるものだ。ヒトの耳では、音はまず耳の穴に入って鼓膜をふるわせる。その振動は、鼓膜とつながる耳小骨という小さな骨を介してうずまき管に伝えられる。うずまき管は、中にリンパ液(※)が入った器官で、カタツムリの殻のような形をしているが、これを伸ばすと長さ3センチメートルほどの管になる。その中には、リンパ液の流れを通して伝わってきた音の振動を感じ取る感覚細胞が整然と並んでいて、高音は鼓膜に近い感覚細胞で、低音は鼓膜から離れた感覚細胞で感じ取る。こうして別々に捉えられた音は、神経を通って脳に伝えられ、いろいろな高さの音を聞き分けている。

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上浪春海
上浪春海

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