■妊娠中は猫の排泄物に注意

 臨床的にも、精神疾患の患者さんでトキソプラズマ抗体の陽性者が多いことから、はトキソプラズマを介して人間を操っており、世界各地に伝わる怪猫伝説は本当だったというセンセーショナルな報道につながった。しかし、これには一部の研究者が研究成果をかなり恣意的にとりあげ、マスコミもこれに便乗しているという反論もある。

 正確な臨床データがないことから、「トキソプラズマが国芳を操って猫の浮世絵を量産させた」という一見魅力的な仮説は実際のところ何とも言えないことになる。もちろん、トキソプラズマは重要な母子感染の病原体であるから、日常生活で妊娠中は新たに猫を飼わない、猫の排泄物に触れない、生肉を食べないといった一般的注意を守ることは重要であろう。

(文/早川 智)

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早川智

早川智

早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に戦国武将を診る(朝日新聞出版)など

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