7年近くかけて調べ上げた微生物は延べ1万株以上。SMTPを含む多くの活性物質を見つけ出した。しかしそのことを記した論文は見向きもされず、国立大学の独立行政法人化に伴い研究費は減少する一方。複数の製薬企業に掛け合ったが、全く相手にされなかった。

「企業側は『既存薬があるじゃないか』『副作用もあるでしょ』と。悔しくなって、思い出したのが遠藤先生の『やりもしないでできないと諦めるな』という言葉でした」(蓮見さん)

 気を取り直し、学生や共同研究者らと地道に動物実験を繰り返した。その結果、がんの血管新生抑制や脂質代謝の改善など他の薬効も発見。創薬の可能性を確信し05年、バイオベンチャー「ティムス」を立ち上げた。

 政府系機関からの助成金も得たが、何度も資金枯渇の危機にさらされた。もがき苦しむ中で、既存薬にはない「抗炎症作用」を突き止めた。その実証データを携え50を超える製薬企業を回った。しかし、リスクを嫌う国内メーカーからは「うちは脳梗塞薬はやっていない」「いい治験データが取れたら連絡して」とまたもや突き放された。そんな中、唯一協議を続けてくれたのが米製薬大手のバイオジェンだった。

「誰も評価しないものを評価して初めて新しいものは作り出せると言ってくれた。遠藤先生の教えと重なりました」(同)

 昨年6月、同社から一時金400万ドル(約4億4千万円)と、開発段階に応じて最大3億3500万ドル(約368億円)、売り上げに連動するロイヤルティーの提供を受ける契約にこぎつけた。

 現在、蓮見さんらは発症後12時間までの有効性を調べる治験に取り組んでいる。目指すのは、20年代半ばまでの実用化だ。(編集部・石臥薫子)

AERA 2019年5月27日号