ANELAが16年に愛媛から東京に進出した際、保育所のテナント探し、内装工事業者との契約、保育士の募集までコンサルタントとして一手に引き受けた冒頭の男性が、のちに自らが代表となって立ち上げたのがこどもの杜だ。東京、神奈川の各地に企業主導型保育所を展開したが、まもなく立ちゆかなくなった。都内練馬区で計画していた保育所は土地の利用が困難になり開所に至らなかったケースだが、3千万円超の助成金はまだ返還されないままだ。筆者は昨年10月、こどもの杜の代表に対面で取材。今回、改めて携帯電話に複数回かけて取材を試みたが、つながらなかった。

 ANELAの代表者は、愛媛で15億円以上の資金を高齢者から違法に集めて破産申請をした健康食品販売会社「オハナ生活倶楽部」の元経理担当者だった。地元では「ANELAの保育所に支給されたはずの助成金が、資金繰りが苦しいオハナ生活倶楽部に流れていたのでは」(園関係者)との見方もあるという。

 相場より著しく高い金額の申請が、そのまま受理された理由の一つは、この事業が始まった当初は、助成対象となる工事費の平米単価に上限が設けられていなかったことだ。その後、設けられた上限額も緩かった。

 さらに、助成金の受取口座を事業ごとに分けなくてもよかったため、別事業の予算との混乱が起こり、協会側が私的流用をチェックすることも難しかったという。

 改修費の高額申請が疑われるこうした事例については今年2月、国会で立憲民主党の阿部知子議員も指摘。内閣府は「精査中」として明確な回答を避けた。

 協会の関係者によると、17年度までの2322施設の開園審査はわずか20人ほどで行われ、その多くは派遣社員だった。審査が遅く、経営者らからは「いくら問い合わせても対応してくれない」という声も上がっていた。結果的に、「ザル審査」に陥っていたという。

 児童育成協会の企業主導型保育事業の責任者は、「問題を感じてはいたが、内閣府からの業務委託は1年ごとの契約。人員を増やすのは困難だった」と振り返る。

 こうした状況を踏まえ、内閣府は検証結果とともに、改善策を提示。改修費を水増しして申請する施設を審査の段階で取り除くため、改修の場合の上限を今よりも低い金額で新たに設定する。また、助成の可否の審査などを担う新たな機関を公募することも決めた。

 ずさんな審査によってもたらされた多額の助成金がどう使われたのか、解明が待たれるのはもちろんだが、子どもの保育環境を守り、働く親の仕事との両立を支えるという本来の目的が早急に果たされることを望む。(ライター・大川えみる)

AERA 2019年5月27日号より抜粋