自国開催での五輪出場に向けた代表争いはすでにスタートしている。国際陸連は今年3月に東京大会の出場資格について発表、従来の参加標準記録に加え、すでに導入されている世界ランキング制度を新たに適用すると発表した。全体の出場枠の約半数を参加標準記録突破者から選び、残りの出場資格は世界ランキング上位者に与える。

 実は、この新しい枠組みが波紋を呼びそうだ。東京五輪では空手やスポーツクライミングなどの新競技が採用される一方で、陸上は選手の参加総数を制限することが求められている。そのため、100メートルの参加標準記録は、リオ大会の10秒16から、10秒05へと一気に引き上げられた。記録対象期間は、今年5月1日から来年6月29日までだ。

 また、世界ランキングを上げるためには、世界各地を転戦する「ゴールデングランプリ」などの大会に出場し、ポイントを加算していかなければならない。これまでのように参加標準記録を突破し、日本選手権で3番以内に入れば出場内定というわけにはいかず、選手たちには来年6月までタフな戦いが待っている。

 現状、参加標準記録を破っているのはサニブラウンのみだが、各陣営ともに今季中に10秒05というタイムをクリアしておきたいところだろう。

 5月14日時点の世界ランキングは、桐生が14位、山県が18位。サニブラウンは国際大会にはほとんど出場しておらず36位だ。今後、ランキングを上げていくためには、けがをせず、ターゲットとする大会できっちり結果を残し続けなければならない。

 ただし、言うは易く行うは難し。陸上の取材を続けてきて感じるのは、スプリンターが年間を通じて好調を維持するのはとても難しいということだ。コンディションを整え、戦略的にポイントを加算していく選手が、日の丸をつけ、新しい国立競技場でのレーンを走ることになるだろう。

 日本の陸上短距離史上、もっとも激しい戦いはすでに始まっている。(スポーツジャーナリスト・生島淳)

AERA 2019年5月27日号より抜粋