米企業の四半期決算の発表を控え、一部の小売業は関税引き上げを理由に「値上げ」を発表した。「便乗値上げ」をしたところさえあるといわれており、今後もこうした企業は増えるとみられる。

 一方で、企業間の競争も激しく、値上げに踏み切れない企業の利益率は圧迫される。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、キッチン用品メーカーのライフタイムブランズは、昨年課された関税が一因となって2019年第1四半期の利益率が縮小した。経営者は、今後の追加関税部分は、消費者が負担せざるを得ないと説明している。

 また、サプライチェーンの集積地である中国から生産拠点を移そうという動きも広がる。中国中心のサプライチェーンでは「貿易戦争」が本格化する前から、人件費の上昇が問題になっていた。「この際」ということで、低コストで関税引き上げの影響も受けず、品質が維持できる国・地域に移転させる引き金になっている。

「雨が降れば土砂降りです」

 米経済ニュース番組のリポーターが5月13日こう言った。米中貿易摩擦への懸念を理由に、株式相場が急落したためだ。

 証券取引所があるニューヨークは、実際に土砂降りだった。ダウ工業株30種平均は、前週末比617ドル安にまで落ち込み、1月以来最大の下げ幅だった。中国からの報復関税が発表された直後で、摩擦の激化が米経済の成長に悪影響を与えるとの懸念を膨らませた。

 80年代の日本の貿易黒字に取り憑かれたトランプ氏が突き進む「米中貿易戦争」は、図らずもじわじわと米企業や国民の懐に悪影響を及ぼし始めている。(ジャーナリスト・津山恵子)

AERA 2019年5月27日号