二つ目の肩書で体得したこの学びは、本業にも生きた。営業のプレゼンで自然と笑いが取れるようになり、日常的にアンテナを張って、顧客さえ気づいていないニーズを把握し、新たな提案ができるようになった。ネタ作りや練習は、往復約3時間の通勤や入浴、2歳、0歳の子どもを寝かしつけた後の時間を活用している。

 気になる収入だが、1回の公演料は無料のこともあれば、数千円の謝礼をもらうこともある。が、年間の収入は多いときでも20万円には届かず、準備の時間を含めて時給換算すれば、わずか数百円にしかならない。

 だが、お金以上の価値があると、霊照さんは感じている。

「仕事という社会的な顔以外に、自分にはこれがある、というものを持ってから、自分の芯がぶれなくなったというか、さまざまな迷いがなくなったんです」

 自分に自信が持てなかった20代の頃は、目の前にある全てのことに対して全力で挑んでいたが、自分の軸ができて取捨選択ができるようになった。仲間の助けもうまく借りられるようになって、自分の人生を、自分でコントロールできるようになった気がする。

 落語のように、いつか海外で公演するのが夢だ。

「泣語はまだ文化にもなっていないけど、海外でも共感の輪を広げていけたら」

 新たな仕事に踏み出すことで、新たな自分を見つけ出す──。2枚目の名刺は、これからの自分を切り拓くための最強のツールになるかもしれない。(編集部・深澤友紀)

AERA 2019年5月20日号より抜粋