アイスクライミング日本代表の門田ギハード選手(30)のアックスを製作する、自動車部品メーカー、旭鉄工の今井武晃(たけあき)さん(28)は、あるメンバーの言葉が忘れられない。

「部品メーカーからは普段ユーザーの顔が見えないし、故障しなくて当たり前で褒められることはありません。今回は、自分たちが設計したものにすぐフィードバックがある。使う人の顔が見える。モノをつくる喜びや、チーム一丸となって挑戦することを学ばせてもらいました」

 山一ハガネの石川さんも、同様の感想を持つ。

「普段はいただいた図面通りにモノを作る仕事。個人を相手にイチからつくって使ってもらうのは初めてだったので、ワクワク感が大きかった。仕事の意義を改めて感じました」

 植田教授によると、日本にスポーツの概念が根付いたのは、野球が広まった1880年代以降。当然、当時専門メーカーは存在せず、日本のスポーツ産業は異業種から参入した企業が担ってきた。100年以上を経た今、スポーツ用品界にさらなる変革を起こせるか。(編集部・川口穣)

AERA 2019年5月20日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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