成果は劇的だ。3年前、門田選手がW杯に初参戦したときは35位。その後、30位、17位と順位を上げ、新アックスで挑んだ今年1月の韓国大会で9位、アメリカ大会ではついに上位8人による決勝にたどり着いた。初の決勝進出を決めた冒頭の一手も、「このアックスでなければ届かなかった」と振り返る。

 旭鉄工は車のエンジン部品などを作る工場で、アイスクライミングはもちろん、スポーツとも縁はなかった。今井さんも、人工知能を使ったデータ分析などを専門にする研究職だ。なぜ製作を決め、会社もGOを出したのか。

「旭鉄工では部品製造だけでなく、データ分析にも取り組んでいます。モノづくりからデータ分析・課題解決までサポートすることで、技術力を示せると思ったんです」(今井さん)

 アックス完成後の次の目標はデータ分析。分析技術を使えば、苦手な動きを解析してアックスの改良につなげたり、体力的な限界点を知り作戦を立てたり、選手の「勘」頼りの部分をデータで示し、課題解決につなげられるという。

「登っているときはひとりですが、チームで戦っています。僕は代表して登るだけ。いつかは、センターポールに日の丸をあげたいですね」(門田選手)

(編集部・川口穣)

AERA 2019年5月20日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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