「ねえ、もっと声出そうよ」

「けど、あの人たちは来てくれなさそうやし……」

 一緒に宣伝係を担う女の子に促されても、もじもじしてばかり。どちらかと言えば内弁慶で恥ずかしがり屋な彼にとって、なかなかハードルが高い仕事のようです。

 やらないための言い訳が重なり、時間がただ漫然と過ぎていきます。

「今、君は自分のやるべき仕事をやってるか? 何も行動を起こさへんかったら、このまま閉店を迎えてしまうで」

 さすがに見かねて、私は檄を飛ばしました。彼は自分が責任ある行動を取っていないことと、それがプロジェクトにどのような影響を与えているかにはっと気付いたようです。ようやく腹をくくり、勇気を振り絞って、大きな声で宣伝をし始めました。

「こちらで駄菓子屋やってます! ぜひ来てください!」

 呼び込みをしたからといって、全員が駄菓子屋に寄ってくださることはあり得ません。自分には関係ないと無視して素通りする人が大半です。

 ただ、子どもたちが一生懸命に宣伝する様子に興味を示す視線が次第に増えてくるのも実感しました。そして、呼び込みを繰り返すうちに、ついに「どこでお店をやってるの?」と尋ねてくださる方が現れたのです。

「お店はこちらです!」

 お客様を店先までご案内し、持ち場に戻ってきた男の子の表情はとても誇らしげでした。

「おっしゃーーー!!」

 思わずガッツポーズも飛び出し、当初の緊張が嘘だったみたいに大きな声で宣伝を再開します。するとそれに呼応するかのように、少しずつではありますが、一般のお客様が増えていったのです。

 そんな中、あるご年配の女性2人組が嬉しそうに笑いながらご来店してくださいました。

「向こうの方まで大きな声が聞こえてきたで」

「子どもに誘われたから買わなあかんわ」

 家族へのお土産にするからといって、50円の串カツをなんと10本まとめて購入してくださるとのこと。これにはレジを担当していた子も驚きを隠しきれません。

 結局、2時間の出店で約5000円を売り上げ、開店初日を無事終えることとなりました。閉店後のふりかえりでは、商品の配置や値札の付け方、宣伝内容の改善についてのアイデアがいろいろ出てきました。あわせて、電卓やレジの位置、買い物袋の配置場所といった動線に関しても、細かいところまで見直すことに。

「次は今日よりももっと売りたいね」

 ゴールデンウィーク最終日に開店2日目を迎える探究堂の駄菓子屋。はたして、今回の反省を生かして、売り上げを伸ばすことはできるでしょうか。

(文/山田洋文)

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山田洋文

山田洋文

山田洋文(やまだ・ひろふみ)/1975年生まれ、京都府出身。教育家。神戸大学経済学部卒。独立系SIerのシステムエンジニアを経て、オルタナティブスクール教員に。2016年4月、京都市内でプロジェクト学習に特化した探究塾の探究堂(http://tanqdo.jp/)を開校。探究堂代表、認定NPO法人東京コミュニティスクール理事。

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