そうそう、赤ちゃんのお風呂はもっと簡単です。産院では「へその緒が取れるまで沐浴はさせず、温かいタオルで拭くだけにして」と教えられます。日本のような沐浴指導もありませんでした。AAP(米国小児科学会)のサイトにも、こう明言されています。「オムツ替えの度にお尻をきちんと拭いていれば、毎日入浴させる必要はない。生後1年間は、1週間に3回入浴させるくらいで十分だ」と。1週間に3回! 日本では「赤ちゃんは新陳代謝が活発で意外と汚れている。血液の循環を高めるためにも沐浴は毎日欠かさずに」と指導されますよね。なぜ日米でこんなにも違うのでしょうか。

 AAPの解説によると、赤ちゃんの肌は乾燥しやすく、毎日お湯やせっけんで洗うと乾燥を助長させてしまうのだそうです。アメリカは日本より乾燥しているってこと? いやいや、乾燥している地域もあるでしょうが、わたしが住んでいるアラバマ州の湿度は年間を通して70%くらいで、東京の夏の湿度とほぼ同じ。冬はむしろ東京の50%より湿度が高いのです。アメリカ人の肌が日本人のそれより特段弱いとも考えにくい。だから、日本で言われる「子の沐浴は毎日しっかり」は、文化的なものだと思うんです。

 日本人は世界の中でもとりわけお風呂好きだといわれます。学生時代、留学先でトルコ人、ポーランド人、韓国人の男女とルームシェアをしていたんですが、「日本人のシャワー時間は長すぎだ。君らが小柄なのは毎日シャワーでせっせと体を磨いて削っているからだ」とからかわれて、なるほどそうかもねと笑ってしまいました(いやいや、そんなわけなかろう)。

 先日、アメリカ人ママたちと「子どもを産んでからおしゃれしなくなったよね」「化粧とかしないよね」という世間話になったんですが、そのうちの一人が「シャワー浴びれば上出来よ」と言ったんです。で、周りも同意の笑い。日本人の自分は「いや、さすがにシャワーは浴びようよ!」と心の中で叫んだんですが、同時に気持ちがふっと軽くなりました。シャワーって案外エネルギーと時間を使いますからね。毎日浴びなくてよければ、日々の負担がかなり減らせます。体は毎日洗わなければならないというのは、日本人としての思い込みかも。

 シャワー浴びれば上出来――。毎晩子どもと自分の入浴で神経をすり減らしている日本の皆さまがたに、このアメリカ人ママの言葉を贈りたいです。

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◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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