図版=AERA 2019年5月20日号より
図版=AERA 2019年5月20日号より

 追われる、疲れる、思いつめる。仕事のネガティブなイメージをプラスに変えたのは、「副業」であり「複業」だった。新しい時代に新しい肩書をつくれば、きっとわかる。「2枚目の名刺」が自分の武器になることを。

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 地方の中小企業が、大都市の最前線で働いてきた経験豊富な人材を、週1日程度から雇うことができる──そんなサービスを始めたJOINS(ジョインズ)代表取締役の猪尾愛隆さん(41)は現在、自社のサービスを利用して、副業で長野県白馬村にあるマウンテンリゾートで月4日、働いている。任されているのは、ITツールの導入など改善業務だ。

 猪尾さんは大学院修了後、大手広告会社の営業を経て、クラウドファンディング事業を手がけるスタートアップ企業で役員として働いた。企業のマネジメント、マーケティング、資金調達などは、まさに得意分野だ。

「今、地方で求められているのは、現場を回す人材もそうですが、それ以上に、経営者と一緒に現場を変えていける人。つまり、都市部の大企業で働いてきた40~50代の現役世代。このクラスの人材をフルタイムで雇う体力が地方には難しい。しかも移住するとなるとますますハードルが上がる。だからこそ、週1日から働ける副業が有効なんです」

 東京が本拠地の猪尾さんが、実際に現地(白馬村)に通うのは、月1日。あとはリモートを駆使した遠隔業務が基本だ。通勤などにあまり時間をかけることなく、「2枚目の名刺」の活動を広げられるようになった。

 猪尾さんがこのサービスを立ち上げたきっかけは、社員時代の苦い経験だった。

 30代後半、思うように成果が上がらず停滞した時期があった。気がつけば役員降格。会社では常に上司の顔色をうかがい、これまでのように思い切ったことができない。そうなると家族とのコミュニケーションもうまくいかなくなる。家族旅行をドタキャンするほど、思いつめた自分がいた。

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