●配偶者ビザが受け取れず、不安定な立場にストレス

 平等であること、合理的であること。もう一つ、声を上げた人たちに共通するのは、「声を上げられずに苦しむ仲間たちのためにも」という思いだ。

 横浜市に暮らす会社員の中島愛さん(40)と、ドイツ出身のクリスティナ・バウマンさん(32)の2人も、そんな思いで原告団に加わった。

 出会ったのは11年。中島さんが仕事で駐在していたドイツのベルリンだった。バウマンさんが日本への憧れが強かったため2年後、2人で日本に住むことに決めた。

 国際結婚の場合、異性婚なら通常は配偶者ビザが発給され手厚い支援を受けられるが、同性婚を認めていない日本では配偶者ビザを受け取れない。都内の専門学校に通うバウマンさんは、留学生ビザで日本に滞在している。だが病気など何らかの理由で学校に通えなくなれば、ビザが取り消される可能性がある。就労ビザを取ったとしても、就労先が倒産するなどの問題が起きればビザは剥奪されるかもしれない。ビザがなくなればオーバーステイとなり、バウマンさんは在留資格をなくし日本に滞在し続けるのは困難だ。

「すごいストレスです」

 とバウマンさん。日本では女性の地位が低く、レズビアンカップルはさらに弱い立場に置かれている。2人は、女性カップルも胸を張って生きていける社会にしたいと考えている。

「まだたくさんカミングアウトできていない方がいる。すごくくやしい」

 とバウマンさんは言い、中島さんはこう力を込めた。

「同性婚という選択肢を日本の社会が認めてくれるようになれば、多様性が進む大きな一歩になると思います」

 4月15日、東京地裁と札幌地裁で第1回口頭弁論が開かれた。東京地裁で意見陳述した、男性パートナーと暮らす男性(60)は、私たちの日常は男女の夫婦と何一つ変わらないとして訴えた。

「同性婚が認められ、私が若い頃に持っていた自分への否定的な気持ちを、これからの世代の人が感じなくてもよい社会にしてほしい」

 札幌地裁で意見陳述した帯広市の男性(40代)もこう訴えた。

「婚姻が認められれば安心して暮らせる。社会の一員として認められ差別や偏見も減っていく」

 国は、請求棄却を求めており、最高裁判所が判決を下すまでには5年近くかかると見られている。

 前出の寺原弁護士は言う。

「同性婚の問題は異性愛者には関係ないと思う人がいるかもしれませんが、今の日本では、多くの人がこうあるべきという枠の中に閉じ込められ、生き方を制限されているとも言えます。同性婚が認められる世の中は、誰もが自分らしく生きやすい社会への一歩になるはずです」

(編集部・野村昌二)

AERA 2019年5月13日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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