さて、都会の高齢者が自分の車を運転するコストはいくらになるのか。値段比較サイト「価格.cоm」が公表しているコンパクトカーの維持費をベースに本誌が修正を加え、試算した。固定費の合計が約6万3千円。ここに、燃料費や高速道路の料金、外出先での駐車場代といった費用が加わる。月1回満タンにするとして、約6600円。つまり、総額でおよそ月7万円が目安と言えそうだ。

 これだけあると、タクシーでかなりの距離を移動できる。例えば東京23区の場合、タクシー初乗りは1.052キロまでで410円。2キロの移動でも730円だ。高齢ドライバーの外出先の大半はスーパーや病院、公民館など近場だという。2日に1回、2キロ先まで往復タクシーを利用しても、月約2万2千円。月2回は20キロ離れた孫の家まで遊びに行くとしても、迎車料金含めて往復2万8千円程度なので、合計約5万円。当然ながら、途中を電車などにすればもっと安い。

 ほかにも、免許証を返納すると取得できる「運転経歴証明書」があれば多くの特典が受けられる。特典は地域によって違うが、東京の場合、個人タクシーが10%引きになる。70歳以上の東京都民なら、都営地下鉄やほとんどのバスが無料になる「シルバーパス」も格安で購入できる。藤川さんは言う。

「現在の高齢世代にとっては、いい車に乗ることがステータスでした。車にコスト以上のものを求めている人も多いでしょう。それでも、こんな事故が起こってしまった今だからこそ、考える機会にしてほしい。最低でも自動ブレーキ搭載車に乗り換える。それができないなら、車は諦めるべきです」

 所教授は、免許返納には「説得」ではなく「納得」が大切だと指摘する。都市部ならコスト面のメリットはない。あなたが車を持つ高齢者なら。親の運転に不安を感じているなら。コストをじっくり検討して、「納得」に近付いてほしい。(編集部・川口穣)

AERA 2019年5月13日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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