いっぽう、女子や多浪生への「不利」が是正されるなら、そのぶん自分たちの「優遇」ポイントがなくなり、これまでよりも不利になるのでは……。男子の現役生や1浪生は、そんな不安に駆られたようだ。

 今年1浪で東京医大に合格した男子学生(19)は、「不正入試は許されないと思いつつ、自分が優遇されなくなったことへの落胆もあった」と語る。「なぜよりによって今」「自分が合格してから発覚してほしかった」と友人たちと話したこともある。

彼らの不安は、受験校数に表れた。現役や1浪の男子学生が、受験校数を増やしたのだ。

「名古屋では地元医学部を受ける受験生が多いなか、今年は東京など他地域へ遠征する受験生が増えました」(可児さん)

 1人あたりの受験校数が増え、繰り上げ合格者も増えた。

「昨年度は福岡大学で19人、北里大学で55人、杏林大学で127人、繰り上げ合格者が出ました。今年は当校の調査で、今年3月末日時点ですでに福岡大で65人、北里大で155人、4月1日時点で杏林大で190人繰り上げ合格が出ていることがわかっています」(同)

 来年の入試はどうなるのか。可児さんは、今年同様、あからさまな差別は減ると考えている。

「けれども、面接での質問内容や評価は、面接担当者のさじ加減によるところが大きい。引き続き、注視は必要だと思います」

 来年の入試は、翌年に大学入試改革を控える。医学部合格を目指す受験生にとっては、これまでの勉強内容で挑める最後のチャンスだ。例年なら国公立に照準を絞る成績上位者が、浪人を避けるために中堅校を受験。第1志望に受からなかった場合に中堅校に進学すれば、それ以外の医学部志望者にとって今まで以上に合格が難しくなる。

「前期試験で手応えが悪くても浪人を決めず、後期試験に望みをつなぐことも予想されます。後期試験はさらに狭き門になるのでは。医学部と他学部を併願する学生や、医学部進学をあきらめる受験生が増加する可能性も高いと思います」(可児さん)

 さまざまな不安と思惑が絡み合う医学部入試は来年も熾烈な戦いになりそうだ。(ライター・木下昌子)

AERA 2019年5月13日号より抜粋