オレグを映した瞬間に立ち上るカリスマ性、アングルによってはヌレエフを想起させるルックス、プリンシパルとしての能力は振付師との作業でヌレエフ的要素を喚起させる資質があるのではないかと思えたこと。何より一番重要だったのは、「映画のための演技を本能的に理解できる素養があった」ことだった。

「撮影1週間で、オレグは自信をつけていきました。撮影中に不安を抱いたことは一度もなかったですね」

 ところで、名優として名高いファインズ監督がなぜあえて映画を撮るのか。

「ストーリーテラーでありたいというところに端を発していると思います。監督はすべての面において、観客を一つの体験に導いていく役割がある。もっともみなさんに新しい体験をお届けする、なんて言うのは、おこがましいことなのですが(笑)」

◎「ホワイト・クロウ 伝説のダンサー」
ルドルフ・ヌレエフの前半生を描く。5月10日から全国公開

■もう1本おすすめDVD「ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣」

 個人的な好みで恐縮だが、ダンサーの肉体ほど美しいものはないと思っている。

 ここ数年のバレエダンサーでその動きを目にした途端、釘付けになってしまったのが、映画「ホワイト・クロウ」のヌレエフの同僚役として出演しているセルゲイ・ポルーニンだ。19歳にして英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル(トップ)に抜擢されながら、道を外れて2012年に電撃退団。バレエ界きっての異端児のドキュメンタリーが「ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣」だ。中でも、歌手ホージアのヒット曲「Take Me To Church」のMVで披露した彼のダンスは圧巻。YouTubeで再生回数1800万回以上を記録したというが、完璧な肉体、重力さえ自由に操れるのでは?と思ってしまうような動きは何度見ても見飽きない。

 素晴らしいダンサーが多い中、なぜポルーニンのダンスが見る者の目を奪うのか。「ホワイト・クロウ」でファインズ演じるプーシキンがヌレエフに「物語が踊りにないと意味がない」と言っていたが、まさに「物語を語るダンス」とは、こういうことなのだろう。

◎「ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣」
発売元:アップリンク/販売元:ポニーキャニオン
価格3800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2019年5月13日号