電子書籍事業から撤退したサービスのなかには、購入してダウンロードした書籍を終了後も継続して読めるものもあれば、閲覧できなくなるケースもあった。終了後に読める場合でも、端末の交換やOSなどのバージョンアップ以降は非対応になるケースがほとんどだ。だが、サービス終了以降も手厚い対応をし続けるのは、システム維持の面からも難しい。ダウンロードしたから、と安心はできない。

 さらに、電子ならではのこんな側面も。村瀬弁護士が続ける。

「電子コンテンツにおいて、その内容が勝手に更新されることも『今の状態をリクエストする権利』から理屈上ありえます」

 たとえば、紙の場合は社会情勢をふまえた表現や誤字脱字などは重版のタイミングで修正が入り、版数が表記される。一度印刷された本はたとえ回収されようと消えることはない。だが、電子書籍はユーザーが意識することなくオンライン時に最新版を更新するケースが多く、「今の状態を提供するという感覚が強い」と村瀬弁護士は言う。

 漫画家「うめ」の小沢高広さんも、自身のコンテンツのバージョンアップをしてきた。

「大きな修正ではなく誤字脱字レベルですが、作家の立場だと恥ずかしいからこっそり直したい。最新版がベストだから読者はそれを見て!という気持ちもわかります」

 小沢さんの場合、修正を入れたら作品に日付を明記している。だが、規定があるわけではないため、あくまでも作家や出版社の判断によるところが大きい。

 受け手への意識はデジタル普及で変わる。(編集部・福井しほ)

AERA 2019年5月13日号

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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