雅子さまが皇太子妃となってからは、私的な交流の機会はなくなった。だが、在日大使館に勤めるイギリス人外交官と結婚した土地さんが、夫とともに皇室の催しや日英関係の行事に出席すると、そこには、皇太子さまと雅子さまの姿もあった。

「7、8回お目にかかる機会がありました。公の場でしたので、毎回二言三言、言葉を交わすだけ。最初はどうお話ししたらよいか戸惑いました。雅子さまも言葉を選ばれていた印象でした」

 当時、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)に勤めていた土地さんは、96年米ワシントンの世界銀行へ。以来、雅子さまとは会っていないが、メディアを通し、その姿を同世代の友人として見守り、応援し続けてきた。

 30年前は、初めて女性が男性と同じ機会を得て、志と夢をもって社会に飛びこんだ時代。

「それから今に至るまで、職場や家庭など、それぞれの場所で役割を担い、また新たな役割をつくってきました。世の中には、体調を崩された雅子さまが、皇太子妃としての役割を十分に果たしてこなかったのではという見方があるようですが、それは違うのでは」と土地さんは言う。

「雅子さまは皇室に入られてから、皇太子さまを支え、温かい家庭を築き、ご自分のお立場を大切に、しっかりと歩んでこられたと思います。その歩みと、雅子さまご自身の豊かな人間性や知性や感性を礎に、皇后さまとしての新たなステージに進んでいただきたい」

 伝統を重んじながらも、時代の流れを反映し、男子を優先していた王位継承権を男女平等にした英国のように、日本も柔軟であってほしい、という思いもある。

「『前例がない場合はだめ』ではなく、新しい時代の天皇、皇后両陛下がその時代に合ったやりかたで、新たな例をつくっていかれればよい。英王室はそうしてきたからこそ、国民との距離がとても近いのだと思います」

 さらに、「最近、メディアを通して雅子さまの笑顔を拝見することが増えたような気がします」と土地さん。

「私がご一緒した若き日の雅子さまは、才気とバイタリティーにあふれ、何よりも明るい方。その笑顔を日本中に、そして海外にもたくさん見せていただきたいですね」

 取材の最後には、かつて押し入れの中でたわいもない話をした「雅子さん」への思いがあふれた。

「久しぶりにお目にかかってお話ししたいな。がんばれ雅子さま」

(構成/編集部・福井しほ)

AERA 2019年5月13日号

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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