陛下に「放課後遊び、観世くん、今日どう」と誘われても「残念ながら今日は父の稽古があるんです」と断ることが何回もあった。そんな時、陛下に、「わかった。能のお稽古大事だよね」と言われたことがある。

「その瞬間ね、ああ、陛下も日本の伝統文化という自分と同じ世界に身を置いておられるんだな、という共通の感覚のようなものを感じましてね。お互いだけがわかる暗黙の了解とでもいいましょうか。子ども心に、ぼくも頑張らなくちゃな、と思いました。陛下のお家と比べるのは恐れ多いですが、それが今も私の能楽人生の宝となっています」と観世さん。

 能楽と皇室とは縁が深い。宮中で能を披露することも伝統的にあり、一般公演同様、大切にしてきたという。一方、2017年には東京・渋谷に長年あった観世能楽堂を、銀座の「GINZA SIX」内に移転。東京の真ん中から能の魅力を発信するなど、さらに存在感を強めている。

「最近お目にかかった時には、愛子さまが学習院女子高等科の学校行事で能楽をごらんになったと伺いました。銀座の観世能楽堂にもぜひ、ご家族でいらしていただきたいですね」

(構成/朝日新聞記者・斎藤智子)

AERA 2019年5月13日号