女性上司は海外生活も長く、男女分け隔てなく接していた。腹を割って仕事をするため「隠し事はしないで」とも言ってくれた。この人なら大丈夫──。実際カミングアウトすると、女性上司は「そうなんだ」と自然に受け止めてくれた。その後、女性はこの上司が信頼している同僚3人にもカミングアウトをした。女性は言う。

「隠し事をしなくていいというのは、すごく仕事にプラスに働いています」

 職場でカミングアウトができるできないの「境界線」はどこにあるのか。

 別のレズビアンの女性(35)は(1)言いたい、または言ってもいいと思える相手が職場にいるかどうか。(2)過去にカミングアウトして楽になった経験があるかどうか。この2点ではないかという。

 この女性自身、今の会社に就職する際、男性社長(46)にカミングアウトした。もともと社長のことを知っていて、この社長であればセクシュアリティーだけでなくあらゆることに偏見は持たないだろうという確信があった。今の職場が4社目だが、その前に勤めていた会社で理解のある上司にカミングアウトしたらその後のコミュニケーションが楽になった経験もあった。いま女性は、同じ部署の同僚たちにもカミングアウトしている。日常の会話からこの人たちは偏見を持っていないと確信できたからだ。女性は言う。

「カミングアウトしていないと些細なことで嘘をつかなければいけないことが多くなります。できれば嘘をつきたくないので、あまり深く聞かれないように一線を引いたコミュニケーションになりがちです。今の職場では、普通にパートナーが『彼女』だとわかってくれているので、互いにコミュニケーションが取りやすくなっていると感じます」

 前出の吉本さんは、大切なのは「カミングアウトしてもしなくても安心できる職場だ」としてこう話した。

「LGBTの社員を支援する制度を整備するのは必要だと思いますが、同時に企業のカルチャーを変えていくことも大切だと思っています。たとえば社内で支援者コミュニティーを立ち上げたり、より当事者の気持ちに寄り添った勉強会を開いたりすれば安心な場が作られ、カミングアウトしてもしなくても、影響を心配しなくていい職場に近づくことができると思います」

(編集部・野村昌二)

AERA 2019年4月29日号-2019年5月6日合併号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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