※写真はイメージです
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 LGBT当事者が周囲にカミングアウトをしたくてもできない環境がまだあることがわかった。制度や知識は広まってきたが、安心して自分をさらけ出せる社会には至っていない。何が問題なのか。

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「あんなやつら、この世からいなくなればいいのに」

 都内の会社で働くレズビアンの女性(38)は、現在の会社に入社して間もない3年ほど前、向かいの席から聞こえてきたこの一言が忘れられない。

 東京都世田谷区が同性カップルを公的に認定するパートナーシップ制度をつくったことが、社内でも話題になっていた。向かいに座る若い男性2人が、制度について話をしていて、一方がそう言い放ったのだ。

「あんなやつら」とは、LGBTの人たちのこと。レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の総称だ。

 この女性はこれまで5度転職しているが、職場でのカミングアウトは過去に1度、仲のいい同僚にしただけ。嘘をついて隠しているのがつらくなり、この人なら自分のことを理解してくれると思い打ち明けた。罪悪感がなくなった。だが、「あんなやつら」とLGBTを蔑む人がいる今の職場では絶対にカミングアウトしたくない。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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女性っぽい男性が入社してきた時に耳にした「調査」という言葉