Benjamin Millepied/1977年、フランス・ボルドー生まれ。振付師、映画監督。現在は米ロサンゼルスを拠点に、自身のカンパニーによるアート活動も始めている。「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2019」は5月12日まで。京都市内の歴史的建造物や近現代建築を舞台に11会場で15のメインプログラムが行われる (c)Yoshikazu Inoue-KYOTOGRAPHIE2019
Benjamin Millepied/1977年、フランス・ボルドー生まれ。振付師、映画監督。現在は米ロサンゼルスを拠点に、自身のカンパニーによるアート活動も始めている。「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2019」は5月12日まで。京都市内の歴史的建造物や近現代建築を舞台に11会場で15のメインプログラムが行われる (c)Yoshikazu Inoue-KYOTOGRAPHIE2019

 映画「ブラック・スワン」の振付師として知られるミルピエの写真が、京都の蔵だった場所に展示されている。独自の表現哲学に裏打ちされた作品だ。

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 暗闇の中を踊るダンサーの姿は、滲む羽を持った天使のようにも見える。等身大のプリントを屏風に見立てた作品は、円形に置かれ、帯匠・誉田屋(こんだや)源兵衛のもと蔵だった空間を独特な場所に変えている。

 現在開催中の「第7回KYOTOGRAPHIE(キョウトグラフィー) 京都国際写真祭2019」における写真と映像作品だ。「Freedom in the Dark(暗闇の中の自由)」と題されたこの作品を撮影したのは、天才的なダンサーとして名をはせた、ベンジャミン・ミルピエさん。ナタリー・ポートマンに米アカデミー主演女優賞をもたらした映画「ブラック・スワン」に振付師、ダンス指導として参加し、のちに二人は結婚している。なぜ、表現手段として写真を選んだのか。

 ミルピエさんは2014年、パリ・オペラ座バレエ団に史上最年少の芸術監督として迎えられた。300年以上の歴史と伝統に対峙しながら演出をする様子は、ドキュメンタリー映画「ミルピエ~パリ・オペラ座に挑んだ男~」として全世界で公開された。16年に芸術監督を辞任すると、11年にロサンゼルスに設立した自身のカンパニーの活動を精力的に行う。ダンス公演だけでなく、写真や映画、ビデオを撮るプロジェクトも進行中だ。

「数年間、ヨーロッパを中心に仕事をして、久しぶりにアメリカに戻ったら、状況はすっかり悪くなっていました。トランプが大統領になってからアートの質は落ち、今や暗黒期と言っていいと思います」

 会場に入ってすぐの壁一面に並ぶ、ロサンゼルスの路上で人々を撮影した作品群は、そんなミルピエさんの思いが表現されているのだろう。

「街に出て撮った作品は、個人的な必要性から生まれました。ハリウッドは華やかな場所ですが貧富の差が激しく、社会の二極化が進んでいます。今、路上で起こっている出来事を伝えたいと思ったんです」

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