また本展では60年代から現在にいたるまで、様々な形でトーベの作品の魅力を日本に紹介してきた人々の功績にも光を当てている。日本で初めてムーミン物語を翻訳し、「おさびし山」や「ニョロニョロ」というユニークな言葉を生み出した山室静(1906~2000)は、晩年まで翻訳や研究に精力的に取り組んだ。一方で病の後遺症に苦しみながら不屈の精神でスウェーデン語を学んだ下村隆一(1928~69)は、ムーミンの翻訳に携わりこれからという時に交通事故で急逝する。71年に初来日したトーベが、残された下村の家族に歓待された後に送った礼状も展示されている。

 最後に立ち寄るグッズ売り場も要チェックだ。原画の魅力をいかしたデザインと色使いで、大人も魅了される。バッグやTシャツ、ポーチやカップなど会場限定のオリジナルグッズだけでも200種類以上。来館したフィンランド人も「日本のほうが色々なムーミングッズが買える」と興奮気味だった。

 展示のアートディレクションを担当した大島依提亜さんらがデザインした図録(税別2200円)は、小脇に抱えて歩きたい可愛らしさだ。約500点の展示品の紹介や解説に加え、「ムーミン谷の冬」のスウェーデン語版初版から一部抜粋・縮小されたとじ込みも入っており、読み物としてじっくりと楽しめる。ついお財布のひもが緩んでしまうのでご注意を。グッズ売り場に寄る時間も含めて、来館の計画をたてることをおすすめしたい。(朝日新聞記者・伊藤恵里奈)

AERA 2019年4月29日号-2019年5月6日合併号