万葉集に最も多く登場した鮎(写真:gettyimages)
万葉集に最も多く登場した鮎(写真:gettyimages)
万葉の時代からスタミナ食だった鰻(写真/筆者提供)
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万葉の時代からスタミナ食だった鰻(写真/筆者提供)

 「平成」が終わり「令和」時代がスタートしました。新元号の出典が万葉集ということで、今世の中では万葉集が大ブームになっているようです。

【写真】万葉の時代からスタミナ食だった鰻

 そこで今回は、万葉集に登場する魚についてのお話です。

 皆さんご存じの通り、万葉集は奈良時代の終わりから平安初期にあたる7世紀後半から8世紀後半にかけて編纂された、現存するわが国最古の和歌集です。収録された歌は約4500首といわれ、人々の暮らしを生き生きと描いた歌も多く、当時の生活を知る上でも貴重な資料といえます。

 万葉集には多くの生き物が登場するのですが、鳥や哺乳類に比べて魚は少なく、「令和」の考案者と言われている中西進氏編著の『万葉古代学』によると、具体的な名称がわかるものは、以下の8種類だけのようです。

 鮎(アユ)、鮒(フナ)、鱸(スズキ)、鮪(マグロ)、鰻(ウナギ)、鯛(タイ)、鰹(カツオ)、鮒(ツナシ:コノシロのこと)。

 最も多く登場するのは鮎で、16首に登場するそうです。

 魚が登場する歌をいくつかみてみましょう。

「醤酢(ひしほす)に 蒜(ひる)搗(つ)き合へて 鯛(たい)願ふ 我にな見えそ水葱(なぎ)の羮(あつもの)」

 意味はこんな感じです。「おろしにんにくをいれた酢醤油で(おいしい)鯛を食べたいと思っている私に、(おいしくない)ミズアオイのお吸い物は見えないようにしておいてください(ミズアオイのお吸い物は食べたくない!)」

 当時から鯛はなかなか食べられない人気の高級魚だったようですね。

 もう一首、万葉集の編纂者の一人とも言われている大伴家持はこんな歌を詠んでいます。

「石麻呂に吾(われ)物申す夏痩(や)せに良しといふ物ぞ鰻(むなぎ)漁(と)り食(め)せ」

 意味はこうです。「(夏バテでやつれてしまっている)石麻呂に教えてあげたよ。夏バテには鰻がいいというから、捕ってきて食べた方がいいですよと」

 今でも鰻は滋養強壮に効くとして、夏バテ防止のために食べられていますが、万葉の時代からそうした慣習があったことがわかります。

 奈良時代や平安時代の人々が食べている風景を思いだしながら食べる魚たちは、いつもより深く特別な味わいになるかもしれませんね。

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◯岡本浩之(おかもと・ひろゆき)
1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、18年12月から「くらコーポレーション」広報担当

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岡本浩之

岡本浩之

おかもと・ひろゆき/1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2021年1月から取締役 広報宣伝IR本部 本部長。

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