「どちらも薬効に優れた油で、医療現場で使われていたという説もあります」(太田さん)

 日本製粉ヘルスケア事業部主席の有川由紀子さんによれば、

「8世紀のフランスでは、『アマニは健康に良いので備蓄しておけ』とカール大帝が指示したという記録も残っています。毎日小さじ1杯のアマニ油を取れば、昔より魚を食べなくなった現代日本人に欠乏しているα‐リノレン酸を補えます。アマニ粒または粉末大さじ2杯でも、同じ量のα‐リノレン酸を取ることができます」

 α‐リノレン酸が体内に入るとがん細胞が増えるのを抑え、血圧を下げ、体内でEPAに変化して血液をサラサラにし(脳卒中や心筋梗塞、動脈硬化を予防)、DHAにも変化して頭の働きを良くする。体内の脂質代謝を改善するので太りにくい体になり、アトピーやぜんそく、花粉症を抑えるなどの効果も見逃せない。

 ならば炒め物も揚げ物もすべてアマニ油かえごま油でいいのではと思うが、ここで「加熱」がポイントになる。素晴らしいα‐リノレン酸だが、熱には弱い。加熱により酸化しやすく、酸化した油は脾臓にダメージを与え、免疫を低下させる。また、アマニ油とえごま油は高価で、毎日大量に使いづらい。

「魚の油が少ない時期に、焼き魚を仕上げた最後にたらっとかけて」(太田さん)

「サラダのドレッシングのほか納豆や冷や奴にかけてもおいしいです。アマニ油小さじ1杯でサバの切り身ひと切れ分のα‐リノレン酸が取れるので、魚を食べる日とアマニ油で補う日と、交互にしてみては」(有川さん)

 α‐リノレン酸とは逆に、火を通しても酸化しにくい(悪い油にならない)のがオレイン酸(オメガ9)を含む油だ。この代表格がオリーブオイルで、ランキングのエキストラバージン(一番搾り)とピュア(二番搾り以降)は、栄養成分としてはまったく同じだ。

「ピュアは風味や香りが落ちますが、エキストラバージンほど高価でなく、大量使いも可能なため加熱用のトップに入れました。『ハイオレイック』とある油は原料の品種改良により、オレイン酸の割合を高めにして作られたものです」(太田さん)

 オレイン酸は火を入れても酸化しにくいだけでなく、血中コレステロールを下げ、胃腸の働きを強化し、胃の不調や便秘を改善する。オリーブオイルを大量に取る地中海沿岸では、飽和脂肪酸が多いバターや生クリーム、肉を多く食べる地域に比べて心臓病による死亡率が低い。「地中海式ダイエット」の食材の一つとしてオリーブオイルが注目された時期もある。

 ただ、病気の予防、健康にいい、と思って取りすぎると、余剰カロリーが結果的に余分な脂肪に変わり、本末転倒。「加熱用に使うときはこの油を」という程度の考え方がいい。(フードライター・浅野陽子、編集部・中島晶子)

AERA 2019年4月29日号-2019年5月6日合併号より抜粋

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。アエラ増刊「AERA Money」も担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などマネー関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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