当時、マックイーンは33歳。並々ならぬ意欲とエネルギーを感じたという。

「緊張感のなかにもこまやかな気配りを感じる瞬間があった。優しい人だったな、と思います。そもそも彼は“服”という概念をフッ飛ばしてる。ファッションはいわば、彼のキャンバス。その服が着やすいか着づらいか、とかいう問題ではないんです」

 だが年に10回以上のショーをこなすなか、彼はドラッグに溺れ、10年に自ら命を絶つ。映画を見て「悲しみと寂しさが込み上げた」と冨永さんは言う。

「彼はすごく素直な人で、自分の生い立ちや感情をさらけだしてクリエーションに生かしていた。彼の生み出す服はまさに“彼自身”。それだけに創作の苦しみも大きかったと思います」

 冨永さんも17歳で海外に進出し、モデル歴は20年になる。共感する部分はあるのだろうか?

「私は14年から3年間モデル業をお休みもしましたし、その時々で新しい自分を見つけて表現するようにしてきた。その点、リーはまっすぐで、あまりにもピュアすぎたのかもしれません」

 マックイーンのブランドはその遺志を継ぐサラ・バートンにより、いまも生き続けている。

「人生をかけて“表現”をした彼の生きざまは、あらゆる人に訴えるはず。映画からそのパッションを感じてほしいですね」(冨永さん)

(ライター・中村千晶)

AERA 2019年4月22日号