田中元子さん(右から2人目)が運営する「喫茶ランドリー」は、みんなの居場所。コインランドリー機の前ではパートナーの大西正紀さんが近所の子どもたちと遊ぶ(撮影/小原雄輝)
田中元子さん(右から2人目)が運営する「喫茶ランドリー」は、みんなの居場所。コインランドリー機の前ではパートナーの大西正紀さんが近所の子どもたちと遊ぶ(撮影/小原雄輝)

 男女雇用機会均等法がもたらしたのは、女性たちの孤独と幸せの基準の喪失だった。彼女たちにとって壁だった終身雇用制と年功序列制という男性社会の産物も崩壊しつつある。みんなが居場所を求めてさまようなか、新たな試みが動き出している。ジャーナリスト・清野由美氏がリポートする。

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 平成には新しい居場所づくりの機運も高まった。阪神・淡路大震災、東日本大震災後から、大きくクローズアップされるようになってきたのが「足元の力」だ。

 建築設計事務所「グランドレベル」を営む田中元子さん(43)は、2018年に東京都墨田区の一角に、「喫茶ランドリー」を開いた。マンションと町工場が並ぶなか、人情味が残る界隈だ。

 コインランドリー機とともに、アイロンかけなどの家事ができる作業台や大テーブルを併設したカフェには、子育て中のお母さんや子どもたち、スーツ姿の男性、旅行者と、さまざまな人がやってくる。オフィスや家だけに限られた日常は、人を摩耗させる。ただ、それぞれに疲れ、孤独を抱えていても、もう一つの居場所があれば、重荷は少し軽くなる。

 実家は茨城県のベッドタウンにある病院だった。私立医大に「ひっかかった」が、医師になる気持ちは湧かず、高校卒業後に、そのまま東京に出た。パチンコ店や雀荘のアルバイトで、その日暮らしを送ったが、不幸せな気持ちはまったく感じなかった。

「幸せになるために必要なのは、お金、権威じゃない。『誰といるか』だと、その時に身をもって理解したんです」

 みんなが居場所を失っているのなら、自分の家の軒先から変えていこうと考えた。屋台を引いて、道行く人に無料のコーヒーを手渡す活動を始めたら、そこから生まれる会話がこの上なく楽しかった。

「社会構造が変わるのは、どうせ50年ぐらい後だけど、そのために今、できることをしたい。私のようなアウトサイダーがやっていけるって、いい時代に生まれたかな、と思います」

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