ここぞという時にはかなり思い切ったことを語る方だと、末盛さんは思う。その「思い切り」には、美智子さまが民間を離れ、皇室へ嫁がれたことへの並々ならぬ決意と覚悟を感じるという。

 今年1月16日、天皇・皇后として最後となった歌会始で、美智子さまはこう詠まれていた。

<今しばし生きなむと思ふ寂光に園の薔薇のみな美しく>

 長い親交のなか、お誕生会も忘れられない。年ごとにフルートやバイオリンなどの音楽家を招かれ、美智子さまがピアノで伴奏される。その日のために練習を重ねることを知り、音色の美しさに魅了された。世界的なチェリスト、ロストロポービチとの共演は感動的だった。

「相手の方とうまく演奏できたときは『本当に友情を感じるのね』とおっしゃっていて、世界中でどれほどの音楽家とお友だちでいらっしゃることか」

 昨年のお誕生日には、地元の岩手県八幡平から名産のリンドウを持参した。すぐに御所で生けられ、美智子さまは「本当にきれいね」と喜ばれた。後で知ったのだが、リンドウの花言葉は「悲しみに寄り添う」。それこそが、美智子さまという存在の輝きでもあると末盛さんは思う。

「ご実家は『子ども捨てるなら正田の門へ』と言われるほど慕われ、ご自分もまた困難にある人たちの悲しみに寄り添ってこられた。これまでどれほど大変なことがおありだったことでしょう。今はただ心から感謝し、『ありがとうございました』と申し上げたいですね」

 美智子さまにはよく「武ちゃんはどう?」と声をかけられる。難病を患い病院通いが続く末盛さんの長男(44)を気遣う言葉だ。2月に御所へ伺った際には「これ、武ちゃんにお土産ね」と、美しい和紙に包んだものを手渡された。その日、おやつにいただいたお菓子と同じものだった。末盛さんはふっと目を細めて、ぽつり。「皇后さまはそういう方なんです」

(ノンフィクションライター・歌代幸子)

AERA 2019年4月22日号より抜粋