日本も、前述の若田氏の説明にもあるように、火星の二つの衛星を観測し、石や砂などのサンプルを持ち帰る探査機「MMX計画」を24年度に打ち上げる予定だ。

 こうした探査機器の打ち上げや、深宇宙領域への補給輸送の分野でも、ISS補給機「こうのとり」(HTV)などに代表される日本の技術が期待されている。「小型化、軽量化、効率化が得意」(若田氏)な日本だけに、20年度に向けて開発が進む新型ロケットH3や、その先の時代を見据えた再利用ロケットの開発にも力を注いでいる。

 次世代の月・火星探査が一気に動き出す20年代となるが、ESAのノルドルンド氏は「こうしている間にも、他の天体への探査が進んでいることを忘れないでほしい」と釘を刺す。

「我々は太陽系全体の探査を目指している。ESAはJAXAと協力して太陽に最も近い惑星の水星探査もしているし、国際的には太陽から最も離れた天王星や海王星といった氷の惑星についての調査も進んでいる」

 NASAのグリーン氏も、海王星よりさらに遠い太陽系の外縁を探査する「ニュー・ホライズンズ」が送ってきた画像を紹介しながら、「探査機は冥王星を通過し、氷の塊がたくさんあるカイパーベルトという領域に入っている。全く想像しなかった世界が宇宙には広がっている」と誇らしげに語っていた。

 3月26日、国際宇宙探査計画に突然、混乱が訪れた。ペンス米副大統領が、予定より4年早い24年までに宇宙飛行士を月面着陸させる方針を示したためだ。中国やロシアの宇宙開発に警戒感を表し、「常にリードする米国に2位はない」と語った副大統領は、実現できなければ担当組織をNASAから変えるとまで言った。NASAは「努力する」としたが、各国が絡む計画の変更は簡単ではない。

 国際協力が宇宙探査の最大の推進力となった新時代に、冷戦期のような覇権主義が再び立ちはだかる。技術と知見の結集が不可欠な月・火星探査だけに、各国の対応が国際宇宙探査の行方を占う試金石になる。(編集部・山本大輔)

AERA 2019年4月15日号より抜粋