ナミビア・ブランドバーグ/麓の集落ではラグビーボールをきっかけにコミュニケーションが広がった。ラグビーを知らない人でも楕円のボールには興味津々(写真:長澤奏喜さん提供)
ナミビア・ブランドバーグ/麓の集落ではラグビーボールをきっかけにコミュニケーションが広がった。ラグビーを知らない人でも楕円のボールには興味津々(写真:長澤奏喜さん提供)
アルゼンチン・アコンカグア/南米最高峰には一度は挑戦を退けられたが、2度目でトライ成功(右)(写真:長澤奏喜さん提供)
アルゼンチン・アコンカグア/南米最高峰には一度は挑戦を退けられたが、2度目でトライ成功(右)(写真:長澤奏喜さん提供)
長澤さんが「トライ」した山(AERA 2019年4月15日号より)
長澤さんが「トライ」した山(AERA 2019年4月15日号より)

 ラグビーW杯をPRしたいと、世界25カ国・地域の山にラグビーボールを持って登山し山頂に「トライ」している、ラグビー登山家の長澤奏喜(そうき)さん。ワールドカップ日本大会のエンブレムのモチーフがダイヤモンド富士であることから、その着想に至ったという。

【地図】長澤さんが「トライ」した世界25カ国の山はこちら

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 特に難しかったと長澤さんが振り返るのが、今年1月に登頂したトンガのカオ島だ。最も近い有人島から70キロほど離れた無人島でアクセス方法がなく、現地に行っても解決策が見つからない。途方に暮れて王族に頼み込めないかと王宮周辺で声をかけていると、偶然にも首相の孫と出会った。彼が州知事を紹介してくれ、知事の手配で漁船をチャーターできたという。

 知事は大のラグビー好きで、「トンガと日本の友好のシンボルになる」と協力してくれた。だが、そこから先もトラブル続き。日帰りの予定で最低限の食料しか持たずに出発したが、海が荒れて上陸できず、別の無人島に接岸した。貝を取って食べ、野生のココナツでのどを潤した。翌日何とか上陸したものの、同行した知事は途中で肉離れを起こし登頂を断念。長澤さんが山頂を往復して戻ってくると知事の姿が見えなくなっていた。一夜明けて無事に再会できたが、肝を冷やしたという。

 コートジボワールとギニアの国境に位置するニンバ山はリベリアとの国境にも近く治安が安定しない地域。自然保護区でもあり立ち入りに厳しい制限があるが、やり取りしていた観光長官が入域許可だけでなく、護衛の国軍まで手配してくれた。軍のオフロードバイクにまたがり、野生のゴリラに威嚇されながら山を目指した。

 海外登山の経験も豊富な山岳ライターの石丸哲也さんはこう指摘する。

「モンブランなど有名な山は、情報が多くガイドによるサポート体制も整っています。技術的な難易度は高くても、準備しやすいと言えます。むしろ、標高は低くてもあまり登山の対象になっていない場所のほうが、いろいろな困難があるものです。それをひとつひとつ解決しながら、普段は注目されない山にもスポットを当てていることが、この挑戦のおもしろさではないでしょうか」

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