「今日は人物の描き方に入っていきます。魅力的なキャラがドラマを作るカギとなります」

 講師はキャラクター作りに必要な要素を板書しながら説明していく。時折ドラマ制作の舞台裏の話に脱線すると笑いが起こる。かと思うと河竹黙阿弥の「三大深切」の説明。理論と実践が緩急をつけて語られていく。

「役者は常に代表作にめぐりあいたいと思っている。そういうものを書けるといいですね」

 綺羅星のような出身ライターを見ていると、遠い将来のことではないように思えてくる。

 近藤剛(たけし)さん(45)は東京都在住の映像ディレクター。撮影・監督したドキュメンタリー映画が公開中だ。映像の世界で着実にキャリアを積んできたが、もうすぐ50歳。このままだと頭打ちになるという不安感があった。

「仕事以外の何かをやることが自分に対する投資貯金みたいに思える。ドキュメンタリーとシナリオは一見正反対に思えますが、ドキュメンタリーにも構成は必要。逆転の発想でシナリオ的な考え方ができたら面白いと思って受講しました」

 徳重ひとみさん(38)は千葉県在住の主婦。4年前に夫の転勤で上京するまでは、地元の鹿児島を一歩も出たことがなかった。子どもの頃から文章を書くことが好き。いまから硬い文章を書くのは大変だが、シナリオなら楽しそうだと思った。

「ここで先生方の実体験を聞き、観ていたドラマは夢じゃなくて現実だったんだと初めて思って、うわあすごい世界だなと。一瞬でも先生に面白いと思ってもらいたくて課題を頑張って書こうとか、プロになりたいと思うようになりました」

 徳重さんには書きたいテーマがある。養護教諭になる勉強をしていた短大生の時、教育実習で不登校のトランスジェンダーの女子生徒と仲良くなった。なぜ学校に来ないのかを聞くと、スカートをはいてこいと先生が言うからだと言う。

「学校に来たいけど先生たちがそう言うから来られないんだよ」

 養護教諭を目指していたが、正解がわからなくなった。養護教諭の道は諦め、就職結婚した後もずっと気になっていた。

次のページ