再統一後のドイツは、若者が集い活気溢れるベルリンに象徴される。だが、そのような賑やかな街でなくとも人々の生活があり、それぞれの物語が生まれる、という当たり前のことに気づく。

「ベルリンがすべてではないからね(笑)。それに、僕がこの街をよく知っている、ということは大きかった」

 自身も本作の舞台になった旧東ドイツの街、ライプチヒで生まれ育った。じつは、バッハが長年暮らし作品を生み出した地であり、音楽の街としても知られる。

「そして何より、(ベルリンの壁崩壊につながる)住民運動が最初に起こった街だ。いまの時代はもちろん、東ドイツの時代にだって、個性豊かな愛すべき人々がいて、物語が生まれていたと思う。ありきたりなドイツのイメージとは違う側面を観てもらえたら」

◎「希望の灯り」
クリスティアンと人妻マリオンを軸に、再統一後のドイツの“いま”を描く。全国順次公開中

■もう1本おすすめDVD 「東ベルリンから来た女」

 ベルリンの壁が崩壊したとき、「希望の灯り」のトーマス・ステューバー監督は8歳だった。「“社会派”だと思われたくなかった」と言う通り、冷戦時代のドイツを描こうとするわけでも、歴史的教訓を観客と共有しようとしているわけでもない。

 けれど、ステューバー監督よりも上の世代の監督たちは少し違う。たとえば、「東ベルリンから来た女」の監督である、西ドイツ生まれのクリスティアン・ペッツォルト(58)。同作では、ベルリンの壁が崩壊する9年前の東ドイツを舞台に、恋人の暮らす西ドイツに行くことを理想としながらも、医師として東ドイツで暮らしていくという思いも断ち切れない、複雑な女性の心理を描いた。

 バルバラ(ニーナ・ホス)を監視する秘密警察、恋人と進める東ドイツからの脱出計画……。歴史に対して向けられる監督の視線は明らかだ。

 ペッツォルト監督は、今年日本でも公開された「未来を乗り換えた男」でも、ファシズムが吹き荒れる祖国ドイツから逃げる男を主人公に据えた。生まれも年代も異なる二人の監督。作品を見比べると、ドイツという国の歴史が抱える複雑さをより強く感じる。

◎「東ベルリンから来た女」
発売元・販売元:アルバトロス株式会社
価格3800円+税/DVD発売中

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2019年4月15日号