「平成を象徴する事件」は「平成のうちに終わらせる」。法務省幹部は執行時にそう語ったとメディアは伝え、お上が時を支配する元号という装置はここでも都合よく使われた感がある。

 そういう意味で上祐は、いまや貴重な証言者である。一連の重大事件に直接関わりはしなかったが、最高幹部の一人として教団内をつぶさに目撃していた。教祖・麻原の素顔も、麻原に惹かれた信者たちの人間模様も、教団が暴走に至る集団力学なども。

ひかりの輪」が入居する世田谷区南烏山の古びたマンションを訪ねると、往時を彷彿させるような雄弁さで、しかしどこか憑き物が落ちたかのような表情で、上祐は私の質問に答えた。

──元教祖らが処刑され、事件は終結したような雰囲気です。ただ、いまも分からないことは多い。まずはいったいなぜ、多くの若者が教団に引き寄せられたか、現在はどう考えますか。

「いくつか大きな原動力があったと考えています。まず、特殊なヨガによる神秘体験は、日本の宗教界にないものでした。精神世界にウブな若者たちがその衝撃に感化されてしまった」

──オウムの神秘体験といっても、薬物などによるものでしょう。

「確かに最後の2年ほどは薬物による体験が追加されましたが、当初からではありません。要するに、激しいヨガ行法の産物です。極限まで食事や睡眠を減らし、朝から晩まで真っ暗な部屋でほとんど寝かせないような状況の下、不思議な体験をする人がいる」

──それは一種の思い込みでは。

「なぜ信じ込むか、共鳴のゆるい人にはわからないかもしれません。でも一部には神秘体験をしやすい人がいて、筆頭がまさに麻原でした。一方、それは被害妄想や誇大妄想にもつながる。霊的体質であり、精神的な病でもある。真実はその中間あたりにありそうだというのが体験者としての私の結論です。そしてもう一つの原動力が時代背景。当時の日本には世紀末への悲観論、終末思想がなぜか広まっていました。ノストラダムスの予言は代表ですが、ヨハネの黙示録などもそうです」

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