今回の新元号の発表は「政治主導」だ。前回、新元号は小渕恵三・官房長官が会見で発表し、竹下登首相(ともに当時)のコメントを談話で短く紹介した。政府が一連の改元行事と距離を置き、前面に立たなかったのは「政治が天皇を利用した」という批判をかわす狙いがあった。

 しかし、今回は明らかに違う。

 菅官房長官の会見に続き、安倍晋三首相本人が異例の会見を行ったのだ。ある自民党幹部は、発表のタイミングも新元号の決定も、全て官邸の意向が大きく影響したと打ち明ける。

「当初、発表そのものも安倍首相がやる計画もあったが、さすがにまずいと立ち消えになった。それでも、誰が見たって首相は目立ちすぎでしょう。政治と皇室との間にも相応の駆け引きがあったと思います」

 思想家・内田樹さんは、安倍政権は新元号の発表を「政治ショー」として巧みに利用したと分析する。

「安倍首相と菅官房長官が終日すべてのメディアに露出するイベントを、統一地方選挙が告示され、夏には参議院選挙が控えるこの時期に仕掛けたことには、生臭い意図を感じずにはいられません」

 事実、統一地方選挙に自民党から立候補している元地方議員は、元号発表は明らかに追い風になったと語る。

「とくに地方では選挙に勝つには世間のムードが重要。勤労統計の不正などに対する批判よりも、元号が変わることで新しい時代を作る、その先頭に自民党が立つというメッセージが明確になった。意図したかどうかは別にして、選挙に挑戦する者としては幸運でした」

『メディアと自民党』などの著作で知られる東京工業大学・西田亮介准教授は、新元号の発表にまつわる一連の騒動に、ある種の日本社会の「型」を見る思いがしたと語る。

「国民や社会がひとつの方向に熱狂し、政治がそれを利用する。政府がインスタなどSNSを駆使して、元号発表の瞬間までの期待を煽る。元号が変わることで具体的に何かが変わるわけではないのに、メディアも横並びでそれを報道する。その日本社会の風潮にさもしさを覚えます」

(編集部・中原一歩)

AERA 2019年4月15日号より抜粋