「コンビニ百里の道をゆく」は、49歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
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お客さまが何に「対価」を払われているのかを考えることがビジネスでは大切です。商品やサービスだけでなく、空間や時間、匂いや手触りなど……お客さまのニーズはどこにあり、何を提供すればビジネスとなり得るか。
たとえば、コーヒーで考えてみましょう。ローソンのマチカフェには100円のコーヒーもあれば、シングルオリジンの「パナマゲイシャ」のような1杯500円のコーヒーもあります。お客さまは、そのコーヒーにいくらまでなら払う価値があるのかを見極めて、判断されています。私たちはそれに見合う商品をご提供できるように日々努力をしなければなりません。
一方、2月末に東京・中目黒にオープンした「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」では、1杯1200円のコーヒーを買うために行列ができるといいます。オープン直後は、最大で1千組待ちという報道もありました。この店に集うお客さまは、コーヒーという「商品」だけに価値を見いだしているわけではないはずです。私がシアトルの「スターバックス リザーブ」に行ったときに感じたことでもありますが、スタイリッシュな空間や洗練された接客、美しいサイフォンから注がれるコーヒーから立ち上る香りなど、そのすべてに払われる「対価」なのです。お店に入ることで、舞台の中にいるような気分で上質なコーヒーが味わえる。その非日常にこそ、1200円の価値を見いだしているのだと思います。
ローソングループでも、たとえば成城石井は棚を高くし、珍しい食材に囲まれているような感覚が味わえます。ナチュラルローソンではインストアベーカリーでパンの焼ける匂いを演出している店舗もあります。
商品だけでなく、「場所・空間」に価値を感じてもらえるお店づくりも進めたいと考えています。
※AERA 2019年4月15日号